秘密のお茶会 [ 6 ]
秘密のお茶会

6.大きな鳥と黒い猫
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 ほどよく蒸らしたお茶を、カップに注ぐ。跳ねないように気をつけて、ゆっくりと。
 アイネはいつものように、伯爵家の令息の視線を感じながら、慎重にお茶をいれた。
 カップに入った琥珀色のお湯から、極上の香りが立ちのぼってくる。
 よし。今日もうまくいった。
 アイネは小さくほほえみ、受け皿を手に取ると、奥のソファにいる令息のもとへ運んでいった。
「ありがとう」
 伯爵の長男イクセルは、穏やかに笑みを浮かべた。手元には本、テーブルの上には帳面があるが、先ほどから進んでいない。アイネが部屋にいる間は手を休め、お茶が入るのをゆっくりと見守るのだ。
 そして、アイネからお茶を受け取ると、すぐに口元へ持っていく。アイネはそれを黙って見つめている。
「おいしい。きみは本当にお茶をいれるのが上手だね」
「そんなこと、ありません」
 茶葉の質と、台所女中の腕がいいだけだ。アイネは最後の仕上げをするだけである。
 けれども、イクセルはいつもアイネを褒めてくれるし、アイネもそう言われるたびにうれしくなる。
 イクセルはアイネを見てほほえむと、カップをテーブルの上に置いた。それからまた帳面に目を落とし、それきり口をきかなかった。
 口数が少なく、いつも本を開いているイクセルを、苦手に思う女中は少なくない。次男のウィルラートが快活で気さくなのに比べると、もの静かな長男はとっつきにくく感じるのだろう。いずれ家督と爵位を継いで、屋敷の主となるということも手伝っているのかもしれない。
 けれどもアイネは、はじめて会った時から、この若君が好きだった。紙とインクのにおいとともにただよう、この部屋の穏やかな空気。アイネがお茶を出す時は、必ず手を止めて礼を言ってくれること。少し低いけれど優しい声と、再び本に目を落とす静かな横顔。
 何よりイクセルは、ウィルラートのように心臓に悪いことをしない。だからアイネもこの部屋では、戸惑うことなく落ち着いていられるのだ。
 アイネはイクセルに頭を下げると、トレイを持ってその場を離れた。扉の前まで歩き、取っ手に手をかけようとすると、
「アイネ・ハーヴィン」
 名前を呼ばれたので振り返った。お茶を出し終わってからイクセルが話しかけてくるのはめずらしい。
「はい。イクセルさま」
 アイネは向き直って答えた。
 イクセルは先ほどと同じ姿勢のまま、顔だけ上げてこちらに向けている。口元にはいつもと同じ笑みがあったが、黒い目は何かを射抜くように鋭かった。
「何か困っていることはない?」
 アイネは首を傾げ、少し考えた。
「いいえ。ありません」
「本当に?」
「はい。みなさんが良くしてくださるので――」
 アイネは途中で口をつぐんだ。何か、見当違いの返事をしてしまった気がする。困っていることはと聞かれたので、素直に仕事のことだと思ったのだが。
 イクセルは変わらずまっすぐ見つめている。ウィルラートと同じ黒い瞳。だが、ウィルラートの目が明るく屈託ないのに対し、イクセルの目は深くて感情を読み取りづらい。何を見ているのかわからないけれど、高みからすべてを見透かしている、鳥のような目だと思った。
 アイネは答え直すべきなのか考えた。けれども、他の答えがどうしても浮かんでこなかった。
「そうか。それなら良かった」
 アイネが悩んでいるうちに、イクセルが先に会話を打ち切った。その後でほほえみ直し、こう付け加えた。
「何かあったら、いつでも相談しにおいで。遠慮はいらない」
「は、はい」
「誰かに気を遣って黙っていたら駄目だよ。僕は秘密を守るから」
「ありがとうございます」
 アイネは急いで答えたが、言われた意味がよくわからなかった。その場で考え直してみるが、やっぱりわからない。
 イクセルはもう一度、優しくほほえんだ。用件は済んだらしい。
 アイネはあらためて礼をすると、わけがわからないまま若君の部屋を出た。

「それ――ばれたんじゃないのか」
 ウィルラートはカップを持ち上げる手を止めた。
 アイネがお茶をいれながら、先ほどイクセルに言われたことを伝えたところである。ウィルラートはうなずきながら聞いていたが、次第に表情が落ち、話が終わるころにはほとんど凍りついたようになっていた。
「ばれたというのは……」
「つまり――俺たちのことが」
 アイネは黙った。イクセルの言葉のひとつひとつを、ていねいに思い出してみる。
「そう……なんでしょうか」
「そうだ。絶対にそうだ」
 アイネが結論を出す前に、ウィルラートが決めつけた。手にしたお茶には口をつけず、テーブルに戻してしまった。
 確かに振り返ってみると、アイネにも思い当たるふしがあった。毎日顔を合わせているイクセルが初めて、それも急に、悩みごとはないかと聞いてきたこと。誰かに気を遣って黙っていてはいけない、という含みのある言葉。
 そして、
『僕は秘密を守るから』
 相談に乗ろうとする者としては、ごくありふれた台詞だ。けれど、その時のイクセルの目は鋭すぎた。こちらの秘密を受け入れようとする前に、すでに見抜いているかのように。
 イクセルは、アイネに秘密があることを知っているのだ。
「そうですね。わたしも、そんな気がします」
 ウィルラートが口を開けて固まった。
「なんで、そんなに暢気なんだ」
「……なんでと言われましても」
「ばれたんだぞ。他の誰にでもなく、よりによって兄さんに。まずいと思わないの?」
「思いませんけど……」
 アイネが小声ながら即答すると、あからさまにウィルラートの表情が変わった。アイネはそこで初めてうろたえたが、何がいけなかったのかわからない。
「どうして、思わないの?」
「……ええと」
 即答はしたものの、特に深い考えがあったわけではない。秘密を知られてまずいと思う気持ちが、アイネの中にまったくなかっただけだ。それがなぜなのか考えてみる。
「イクセルさまが、秘密を守ると仰ったからです」
 単純で明確な理由だった。
 けれども、ウィルラートは納得してくれなかった。それどころか、ますます表情が険しくなった。
「誰だってそう言うんだ。信用できるもんか」
「いいえ。イクセルさまは、嘘はおっしゃらないと思います」
「ずいぶんと兄さんを信用しているね」
「……ウィルラートさまこそ、どうして信じようとなさらないんですか? ご兄弟なのに」
 ウィルラートが口をつぐみ、アイネを見つめてきた。目も口もまったく笑っていない。それどころか、明らかに怒っている。ウィルラートは感情が顔に出やすいたちなのだ。
 アイネは体が冷たくなるのを感じた。ウィルラートと言い争う気はまったくなかったのに。ただ、思ったままを口に出しただけなのに。ウィルラートはいつも、アイネのたどたどしい言葉を、ゆっくりと聞いてくれるのに。
「ウィルラートさま、お気にさわったのなら謝ります。ごめんなさい」
「別に謝ることはない」
 ウィルラートは目をそらすと、放ってあったお茶を一気に飲んだ。もう、アイネを見ようともしてくれなかった。
「わたし、ただ、ウィルラートさまが、ご心配なさらないようにって……イクセルさまはきっと、秘密は守ってくださるので」
「もういい」
 ウィルラートがアイネの言葉を打ち切った。その声があまりに冷たかったので、アイネは体の芯が凍りついて、それきり何も言えなくなった。
 沈黙の中を、時間だけが通り過ぎていく。何か言わなければ、ウィルラートにこちらを見てもらわなければ――そう思えば思うほど、言葉が浮かんでこなくなる。床に根が生えたように、足も体もまったく動かない。
 やがて、ウィルラートが口を開いた。
「また明日」
 体中が、叩かれたように震えた。
 ショックが顔に出ているのがわかったが、どうすることもできなかった。
 ただ、小さく頭を下げて、黙って部屋を出ていくだけで精いっぱいだった。

 どうしよう。どうしよう。
 ウィルラートを、怒らせてしまった。
 屋敷の廊下を歩きながら、アイネの頭はそのことでいっぱいだった。
 こんな雰囲気になったのははじめてだった。アイネが伯爵家に来た時から、ウィルラートはいつも明るくて、優しくて、アイネが何か失敗しても、気の利いたことを言えなくても、ずっと笑顔でいてくれたのに。
 一度だけ例外があったとすれば、それはあの時だけだ。
 ウィルラートが言ってくれた言葉に、アイネが答えられずにいた数日間。
 アイネは立ち止まった。ウィルラートの冷たい声と、微笑のかけらもない表情を思い出して、泣き出しそうになった。
 こういう時にどうすればいいのか、アイネにはまったくわからない。ウィルラートが優しくしてくれる時でさえ、どう応えたらいいのかわからなくて戸惑うのに、怒らせてしまった時のやりかたなんて知らない。
 アイネは震える腕を抱きしめて、悲鳴を上げそうになるのをこらえた。
 誰かに話したい。いま起こったことをぜんぶ打ち明けて、どうすればいいのか教えてもらいたい。
 誰か――
 頭の奥のほうに、さっき会ったばかりの顔が浮かんだ。
『何かあったら、いつでも相談しにおいで。遠慮はいらない』
 イクセルは優しくて落ち着いた人だ。どんなことを話しても、きっと穏やかな表情を崩さずに、最後まで聞いてくれる。
 アイネの足はひとりでに引き返していた。
 廊下の角を曲がり、階段へ向かう。イクセルの部屋は上の階だ。同じ階にウィルラートの部屋もあるのだが、そのことは考えないようにした。
 足早に階段をのぼり始めたところで、下りてくる人影に気がついた。アイネと同じ女中のお仕着せだが、両手いっぱいに大量の布を抱えているので、ここからは顔が見えない。
 アイネが上に、相手が下に進み、同じ段に立ったところでお互いに気がついた。
「あら、アイネ」
「……イルダさん」
 布の山から出てきた顔を見て、アイネは全身から力が抜けるのを感じた。
 もうひとり、いたのだ。イクセルの他に、アイネの話を聞いてくれる人が。
「どこへ行くの? お茶はもう出し――きゃあっ」
 イルダの言葉は自分の悲鳴で打ち消された。アイネが最後まで聞く前に、階段の途中で抱きついたせいだ。実際にはほとんどイルダではなく、おびただしい布のかたまりに抱きつく形になったのだが。
「ちょ、ちょっと! 危ないわよアイネ、こんなところで!」
「どうしよう、イルダさん、どうしよう」
 アイネはイルダの言葉には答えずに、必死で繰り返した。指先だけがイルダの腰にやっと届き、そのあたたかさに泣きそうになった。

 イルダは冷静だった。まず自分の持っている仕事を片づけ(客間のリネンを運んでいたらしい)、アイネにも次の仕事に向かうように命じた。
 そしてお互いの手が空いたところで、約束どおり話を聞いてくれた。厨房には他の女中たちが集まっていたので、屋敷の裏にある倉庫の側で話すことになった。
「――それであんたは、イクセルさまのところへ行こうとしてたわけ?」
 話がすべて終わると、イルダはまずそう言った。
 アイネは小さくうなずいた。
「うん。途中でイルダさんに会ったからやめたんだけど」
「そう。良かったわ、そのまま行かなくて」
「……やっぱり、そうよね。図々しかったわ」
 主人の家族に優しい言葉をかけられて、それに甘えるような使用人はどこにもいない。相談に乗ろうと言われたからといって、ほんとうに相談に行くなんてどうかしていた。落ち着いて考えてみれば、アイネにだってすぐわかることなのに。
「ちがうのよ。図々しいとかいう以前に、イクセルさまには相談しないほうがいいわ」
「……え?」
「そんなことしてごらんなさい、ウィル坊っちゃまがますます機嫌を損ねるわよ」
 アイネはきょとんとした。
「どうして?」
「……あのね、アイネ」
 イルダは額を押さえた。その仕草を見ても、アイネにはまだ先が読めない。
「……要するに、坊っちゃまは妬いてるのよ。あんたがイクセルさまと仲良くして、褒めるようなことまで言ったから」
 アイネはしばらく、黙った。はじめて聞くようなことがらは、まず自分の中で繰り返してみないと意味がつかめない。
「えっと、妬いてるって、あの……」
「そんなにいろいろな意味はないわよ」
 ぴしゃりと言われ、アイネの顔がにわかに熱くなった。
 イクセルに相談しに行かなくて良かった、と心から思った。
「……で、でも、どうして?」
 アイネはまた別の理由でうろたえた。
 イクセルのことは大好きだけれど、ウィルラートに対するそれとは意味が違う。ウィルラートもそれは知っているはずだ。アイネの気持ちはすでにはっきりと伝えたし、その後――いまだに信じられない時もあるけれど――ふたりは恋人同士になったのだから。
 そもそも、アイネがイクセルを慕う理由のひとつは、ウィルラートの兄だからということなのに。
「まあ、今さら妬かなくてもって気はするけどね……」
 イルダがどこか投げやりに言った。倉庫の壁の汚れが気になったらしく、エプロンの裾で軽くこすっている。
「たぶん、相手がイクセルさまだってことが大きいんだと思うわ。あれでけっこう、お兄さまに引け目を感じてるみたいだし」
「……そうなの?」
「表だって張りあうことはないけどね。イクセルさまのほうが五つも年上だし、はじめから跡継ぎだって決まっているし。でも、いろいろあるんじゃない? ああも性格がちがう兄弟だと」
 アイネにはよくわからなかった。確かに対照的な兄弟だと思うが、どちらかが優れていて、どちらかが劣っているということではないはずだ。
 イルダは小さいころから二人を見ているので、アイネの知らないことも知っているのだろう。
 とにかく、これでウィルラートの気持ちはわかった。イルダに相談してほんとうに良かった。
「ありがとう、イルダさん。明日、ウィルラートさまと話してみるわ」
「余計なことは言わなくていいと思うわよ。あんたが謝ることもないし」
「うん。でも、ちゃんと仲直りする」
 にっこり微笑みながら、でもやっぱり、少しは謝ろうと思った。イクセルの味方をしたことではなくて、その後、きちんと話し合わずに逃げてしまったことを。
 うまく伝えられるか不安だから、それまでに頭の中で練習しておこう。

「ちょっと薄いみたいだけど」
 イクセルの口から、いつもとは違う感想が飛び出した。
 とたんに、アイネは浮き足立った。
「も、申し訳ありません」
「ああ、別にまずいと言っているわけじゃないよ。ただ、いつもと少し違ったから」
 イクセルはカップを置くと、アイネの顔を見上げた。穏やかな、けれどどこか試すような目に見つめられて、アイネは思わず顎を引いた。
 紅茶の味がいつもと違うのは、いれながら考えごとをしていたせいだ。
 これが終わったら、ウィルラートの部屋へ行く。いつものように笑顔で会い、いつものようにお茶をいれれば、きっと緊張せずに話せるはずだ。
 何度も頭の中で繰り返していたので、集中力が手元になかったに違いない。仕事をおろそかにしてしまっては、だめだ。
「申し訳ありません、イクセルさま。おいれしなおします」
「それはいい。――いや、やっぱりそうしてくれるかな?」
 イクセルは笑った。
 アイネが、はい、と答える前に、彼の目線はアイネからそれた。扉を叩く音がしたのだ。
「どうぞ」
 イクセルの声に促されて入ってきた人物を見て、アイネは思わず叫びそうになった。
「たまには一緒にお茶でも飲もうと、誘っていたんだ」
 イクセルは手招きして、現れた弟に椅子をすすめた。
 ウィルラートは歩いてきたが、兄が示した椅子には座らず、テーブルの真横に立った。ちょうど、アイネとイクセルの間に、二人を横から見つめるかたちで。顔にはひとかけらの笑みもなく、昨日別れた時そのままだった。
「というわけでアイネ、二人ぶんお願いできるかな?」
「は、はい」
 笑顔のイクセルに言われて、アイネが手を動かし始めた時だった。ウィルラートがさっと手を伸ばし、アイネの腕をつかんだ。
 小さく叫んだアイネを見た後、そのまま兄に目を移す。
「すみません、兄さん。やっぱり自分の部屋で飲みます」
 アイネはふたたび仰天した。いったい、今日この部屋で何度めだろう。というよりも、いま目の前で何が起こっているのだろう。
 イクセルもめずらしく目を見開いていたが、やがてそれを細め、いつもの穏やかな微笑になった。
「そう。わかった」
「すみません。では失礼します」
 ウィルラートは頭を下げると、兄に背を向けた。
 手を引かれたアイネは慌てて、放りっぱなしの茶器と二人を見比べる。
「イクセルさまにお茶を――」
 そう言いかけた時、ちょうどイクセルと目が合った。彼はにこりと微笑み、小さく首を振ってみせた。そしてアイネの視界から消えた。
 いつも自分の部屋にこもって、本ばかりを相手にして、使用人ともほとんど話をしない、伯爵家の長男。
 もしかすると、彼は何もかもを知っているのではないかと思った。

「ごめん」
 部屋に入って扉を閉めるなりウィルラートが言い、アイネはまたも驚くはめになった。
「そんな、わ、わたしこそ、すみませんでした」
 アイネはつっかえながら早口で言い、とたんに後悔した。
 どういうふうに切り出して、どういうふうに謝るか、昨日からあんなに練習したのに。完全に台無しだ。
 ウィルラートはアイネから手をはなし、閉じた扉にもたれかかった。そのままうつむくと、ずるずるとその場に座り込んだ。
「ウィルラートさま?」
 アイネは慌てて、ウィルラートの前に屈み込む。
「だ、大丈夫ですか」
 顔を覗き込もうとすると、ウィルラートの手が出て視界を遮った。
「……ごめん。ちょっと今、見せられない顔をしてる」
「……え?」
 アイネは戸惑ったが、どうすることもできなかった。目の前にウィルラートのてのひらがあって、今もその顔を見ることはできない。
 このまま立ち去るべきなのか迷ったが、アイネは結局その姿勢のまま、うつむくウィルラートを見つめた。
 思ってもみなかった。ウィルラートが、こんなふうに落ち込むなんて。
 ふたつ年上のアイネの恋人は、いつも前を向いてて、迷いがなくて、自分のすることを信じている人だと思っていた。アイネのほうが悩んだりくじけたりしながら、必死で彼についていこうとしていたのに。
 意外だったけれど、不思議と胸があたたかくなった。
 アイネはウィルラートを見て微笑み、自分でもびっくりするようなことをした。ウィルラートの首に手をまわし、うつむく彼の頭を抱き寄せたのだ。
「……何?」
 腕の中で、こわばった声が聞こえる。
「こうしていると、お顔が見えません」
 言い聞かせるようにゆっくりと言った。
 ウィルラートがかすかに身じろぐ気配がしたが、やがて思い直したのか、おとなしくアイネに抱きしめられていた。片手で触れたウィルラートの髪はとてもやわらかくて、アイネはまるで、大きな猫を抱いているような気持ちになった。


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