二つの国

二つの国
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 大きな大陸の東と西に、二つの国が向かい合っていました。
 二つの国の二人の王には、一人ずつ子供がありました。東の国の王の子は女の子で、西の国の王の子は男の子でした。二人はそれぞれの国で大切に育てられたので、国の外の人間を見たことはありませんでした。
 ある時、二つの国の間で戦争が起こりました。
 二人の王は戦場に、自分の子供を連れて行きました。
 東の国の王女は東の国の王の後ろで、西の国の王子は西の国の王の後ろで、戦場を眺めていました。
 笛の音が響き渡り、二つの国はそれぞれ旗を掲げました。
 東の国の王が合図を出しました。
 西の国の王が合図を出しました。
 広い戦場に、矢が雨のように降りました。馬が走り回り、剣と剣がぶつかり合いました。
 二つの国の王女と王子はそれぞれの陣地の後ろのほうで、二つの国の人間が傷つけ合うのを見つめていました。
 馬が無数の矢を浴びて倒れました。乗っていた人間は荷物のように投げ出されました。
 二人の人間がお互いを剣で傷つけていました。一人の剣がもう一人のからだに、一人の剣がもう一人のからだに突き刺さりました。二人は同時に倒れました。
 二つの国の王女と王子はそれぞれの陣地の後ろのほうで、二つの国の人間が死んでいくのを見つめていました。
 戦いは三日三晩続きました。
 東の国の人間はみんな、西の国の人間に殺されました。
 西の国の人間はみんな、東の国の人間に殺されました。
 残ったのは二つの国の二人の王と、その子供たちだけでした。
 東の国の王は王女を置いて、西の国の王に近付きました。
 西の国の王は王子を置いて、東の国の王に近付きました。
 二人は剣を抜き、戦い始めました。
 二つの国の王女と王子はそれぞれの陣地の後ろのほうで、二つの国の王が傷つけ合うのを見つめていました。
 二人の王は、同時に地面に倒れました。それきり、二人は動かなくなりました。
 戦場に残ったのは、二つの国の王女と王子だけでした。
 二人はゆっくりと辺りを見回しました。馬が倒れ、人間が倒れていました。生きているものは何もないように見えました。地面に突き刺さった矢だけが、空を向いて立っていました。
 やがて二人は、お互いの姿に気が付きました。
 東の国の王女は、西の国の王子に近付きました。
 西の国の王子は、東の国の王女に近付きました。
 しばらくの間、二人は黙ってお互いを見つめていました。
 なぜなら、戦場には二人だけしか残っていなかったからです。
「みんな、いなくなってしまったわ」
 東の国の王女は、西の国の王子に言いました。
「そうだね」
 西の国の王子は、東の国の王女に言いました。
 二人はお互いの手を取り、そっと握りました。
 なぜなら、二つの国には二人だけしか残っていなかったからです。

 二人はその後、二つの国で静かに愛し合って暮らしました。



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