テューダーの薔薇 [ 1−7 ]
テューダーの薔薇

第一章 宮廷 7
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 セシリーが、エリザベスと話をしなくなった。部屋ではいっさい口を開かず、エリザベスが声をかけても答えずに離れていってしまう。夜会にもあいかわらず出たがらず、どこへ行くにも一人で出かけるようになり、王妃に呼ばれた時は別々に応じるようになった。
 使用人たちは見て見ぬふりをしているが、実際は姉妹の不和に気づいているに違いない。エリザベスは情けなかった。何より、母には決して知られたくなかった。手紙の返事には、自分もセシリーも変わりなく元気で、宮廷での暮らしにも慣れてきたと書くようにしていた。
 自分の部屋にいると、セシリーがいてもいなくても気がめいってしまう。エリザベスは侍女の一人を連れて、散歩に出歩くようになった。
 ウエストミンスター宮殿を出て、何も考えずに練り歩く。宮廷人には会いたくないので宮殿の中は歩けないし、リチャードに止められているので市民の多い市街地にも出られない。人気の少ない場所を適当に選んでいくうちに、いつの間にかテムズ川をはさんで、ロンドン塔の前に立っていた。
 廷臣やその家族、使用人たちをおおぜい抱えたウエストミンスターに比べ、こちらはどこか寂しげで、人の気配や熱気が伝わってこない。エリザベスも住んだことのある王宮だというのに、監獄のような印象を拭い去ることができない。エリザベスが生まれてからの短い間だけでも、この城は二人のイングランド王を閉じ込めていたのだ。かつてはヘンリー六世を、そして今は廃位されたエドワード五世を。
 こうして離れて見つめていると、あの中に二人の少年が暮らしているとは、とうてい思えなかった。
――おかわいそうな、おかわいそうな、二人の王子さま。
 どこからか、芝居がかった声が聞こえてきた。通りすがりの市民か、城に出入りしている使用人か。
 声はどこからともなく聞こえ、テムズ川の流れにのって響きわたった。
――王位ばかりか命までも、実の叔父さまにとられてしまうなんて!
 エリザベスは思わず頭を振った。
 くだらない噂だ。それどころか幻聴かもしれない。けれども、実際に耳にしてしまうと体が震える。
 どんな形であれ、弟たちがあの中で暮らしていることは、確かなはずなのに。
 エリザベスはきびすを返し、ロンドン塔に背を向けた。これ以上この場所にいると、良くないことばかり考えてしまう。
 しばらくあたりを歩いたが、どうしても足どりは落ち着かなかった。あきらめて宮殿に戻ったが、ここでも行くべき場所が思いつかない。まだ日は高く、日和も悪くない。庭園にでも行こうかと思ったが、エリザベスの足はひとりでに、別の場所を目指していた。

 王妃の居所に着くと、顔見知りの女官を見つけた。相手もエリザベスに気づいて歩み寄ってくる。
「レディ・エリザベス。何かご用でしょうか」
「王妃さまにお目どおりを願いたいのです」
 女官は片眉をつり上げた。
 呼び出されもせずにここを訪ねるのははじめてだった。なぜここに来てしまったのか、エリザベスにもよくわからなかった。セシリーのことも弟たちのことも考えまいとしていたら、自然と足がここに向かっていたのだ。
 忘れようと努めていたせいで、かえって深く気にしていたのかもしれない。セシリーが泣きながらエリザベスに言い放った、王妃に関する言葉のかずかずを。
「今はお会いになれません。お加減が良くないのです」
 女官はきっぱりと言った。
 宮殿にいる廷臣や使用人の中には、いまだにエリザベスが王女だったことを意識している者が多いが、この女官は違った。元王の娘であろうが、行きがかりに王妃の居所に迷い込んだ下女であろうが、関係ないとでも言いたげな態度だった。アンがロンドンに移る前から仕えていた侍女の一人で、ここに来るたびに顔を合わせている。エリザベスを前にしても萎縮しない表情からは、単なる務め以上に、アンの容態を気遣っているのが伝わってくる。
「わかりました。早く良くなられるようお祈りします」
 エリザベスは素直に引き下がった。もともと、無理を通してまで会うつもりはまったくなかった。
 今いた場所を背にして歩きはじめ、ずいぶん離れたところで、再び女官の声がした。
「お待ちください、レディ」
 振り返ると、先ほどの女官が後ろについて来ていた。
「王妃さまがお会いになるとおっしゃっています。中へお入りください」

 いつもアンと話している部屋ではなく、寝室のほうに通された。エリザベスが入った時、アンは寝台の上で、侍女の手を借りて身を起こしているところだった。
「王妃さま、そのままになさってください」
 エリザベスは慌てて歩み寄った。
 アンはエリザベスと目が合うと、かすかな笑みを浮かべた。面やつれした白い顔に、苦痛の跡がくっきりと残っている。着ているものは寝間着のままで、ほどかれた髪が肩や胸に散っている。エリザベスは来てしまったことを後悔した。
「臥せっていらしたとお聞きしました。ご気分はお悪くないのですか」
「咳がひどかったから、疲れてしまっただけなの。もうだいぶ眠ったから大丈夫よ」
 アンは言った。声もかすれていて、いつもよりさらに弱々しかった。
「申し訳ありません。すぐに失礼しますわ」
「いいえ。せっかく来てくれたのだから、少しお話してちょうだい」
「では、横におなりになってください」
 エリザベスは侍女とともに、アンが再び横たわるのを手伝った。
 寝台に身を沈めたアンは、起きている時よりもさらに小さく見えた。体をしめつけないゆったりとした寝間着が、かえって痩せた肩や腰を目立たせている。シーツの上に置かれた手も、袖口から覗いている手首も、今にもこわれそうなほど細い。広がった金髪の中に浮かぶ顔も、青白くやつれていた。
 このような女性が、乱世のイングランドで王妃の座についているなど、何かの間違いではないか。そう思わせるほど、アンは小さく、頼りなかった。
 エリザベスが侍女がすすめてくれた椅子に座ると、アンは侍女たちに下がるように命じた。部屋の中にいるのは、アンとエリザベスの二人だけになった。
「申し訳ありません、王妃さま。このような時に」
 エリザベスは言った。来てしまったことを心から悔やんでいた。これではセシリーのことを叱れない。
「いつでも好きな時に来て構わないのよ。わたしも、あなたがいてくれると嬉しいわ」
「でも、お加減が悪かったというのに」
「わたしはいい時のほうが少ないの。子どものころから弱かったのよ。エドワードもかわいそうに、わたしに似てしまったのかしら」
 アンは一人息子の名前を口にした。
 寝台の近くには、アンがいつも手にしている縫い物が、やりかけのまま置いてある。この王妃の関心ごとは、家族や親しい友人の健康と幸福だけなのだ。
 エリザベスは続ける言葉が思いつかず、しばらく黙っていた。いつもならエリザベスに話をせがむアンも、今日はどういうわけか、促そうとしなかった。消え入りそうな笑みを浮かべたまま、寝台からエリザベスを見上げているだけだった。
 王妃の居所は人の出入りが少なく、いつ来ても静かである。今日は外の穏やかな天候もあって、澄みわたるような空気がただよっていた。
「エリザベス。セシリーは元気なの?」
 アンがゆったりと切り出した。
 エリザベスはアンの目を見た。アンはいつもどおりの、穏やかな笑みを浮かべていた。
 エリザベスははっとした。二人が別々に訪ねてくるようになったことに、アンが気づいていないはずがない。アンはすべて見透かしているのだ。セシリーがエリザベスを無視し、姉よりも王妃を慕っていることも、エリザベスがそれを恥じていることも、アンはすべてわかっているのだ。
 体が熱くなった。感情が喉までせり上がったが、言葉に出すまいと口元を押さえた。ここへ来てしまった理由にようやく気がついた。
「どうしたの、エリザベス」
 アンの顔から笑みが消えた。
 エリザベスは声を殺し、息をすることさえ止めていた。何か言いたくてたまらなかった。何か、アンを傷つけるようなことを。
 いったい、どんなやりかたでセシリーを手なずけたのだ。セシリーはエリザベスのかわいい妹で、一緒にいるただ一人の家族だった。エリザベスだけを頼りにし、エリザベスに逆らうことなど一度もなかった。アンはどんな言葉でセシリーを取り込み、エリザベスから妹を奪っていったのだ。
 こんなに小さく、弱く、何の力も持たない王妃なのに。抜きんでた美貌も知性もなく、宮廷の中や外で何が起きているのかも知らず、王妃としての務めも何ひとつ果たせていないくせに。
「なんでもありません、王妃さま」
 エリザベスはやっと言った。本当に言いたいことを押し隠し、それだけ言うのが精いっぱいだった。
 アンは答えず、寝台からエリザベスを見つめていた。やがて、手が伸びてきてエリザベスの腕に触れた。
 エリザベスは驚き、思わず飛びのきそうになった。必死で押しとどまり、もう一度アンを見ると、アンは再び微笑んでいた。
「いいのよ」
 アンはささやいた。透きとおるような声だった。
「言ってもいいし、言わなくてもいい。あなたの楽なほうを選んでいいのよ」
 アンの手がゆっくりと動き、エリザベスの腕をさすった。
 アンはわかっているようだった。エリザベスがアンを憎んでいることも、胸の中に感情を溜めこんでいることも、それを必死で抑えていることも、すべて気がついているようだった。その上で、エリザベスの苦痛を和らげようと、持てる力をすべて片手に込めて、エリザベスに触れていた。
 王妃さまは優しい方よ、というセシリーの言葉が聞こえた。
 エリザベスは何も言わないまま、おとなしくアンに撫でられていた。もう、息を殺さなくても声は出なかった。泣きもせず、笑いもせず、小さな子どものようにアンの手に自分を委ねていた。

 ずいぶんと長いあいだ、エリザベスはアンのそばに座っていた。アンは何も言わず、エリザベスも何も言わなかった。
 ふしぎな気分だった。午睡の後のような心地よいだるさがあった。少しずつ頭は冴えてきたが、ここに来る前に抱え込んでいた、のしかかるような重い感情は戻ってこなかった。悩みごとに苛まれながら眠りにつき、目を覚ますと楽になっていた時のようだった。
「王妃さま、ジョンさまがお見舞いにいらっしゃいました」
 やがて沈黙をやぶったのは、ここに来た時に会った女官の声だった。
 アンが顔を動かし、エリザベスも慌てて離れようとしたが、アンの手に止められた。見下ろすと、アンは再びエリザベスに目を向けて微笑んでいた。
 やがて、見覚えのある少年が部屋に入ってきた。ジョンはエリザベスを見て驚いたようだったが、彼が口を開く前にアンが言った。
「ジョン、レディ・エリザベスを送ってさしあげて」
 エリザベスはぎょっとして立ち上がった。
「王妃さま、わたしは一人で戻ります」
「いいのよ。ジョン、お願いね」
 少年はアンとエリザベスを見比べ、まだ驚きの消えない顔でうなずいた。
「はい、義母上」

 エリザベスはジョンと並んで、宮殿の中を黙って歩いた。
 この従弟と二人だけになるのははじめてだった。沈黙しているのは気まずいが、どう切り出せばいいのかわからない。アンのところでは長いあいだ黙っていたので、まだ頭も口も思うように回らなかった。
「ごめんなさい。せっかく王妃さまのところにいらしたのに」
 エリザベスはやっと口を開いた。
 ジョンは顔を向け、びっくりしたように首を振った。
「いいえ、レディ」
「ええと――ジョン卿?」
「叙爵はされていません。ただ、ジョンとお呼びください」
 堅い口調だった。顔にも笑みは浮かんでおらず、緊張しているようだった。
 ジョンはどちらかというと小柄で、背の高いエリザベスの肩までしかない。顔だちもまだあどけなく、少年らしさが残っている。しかし、そこに浮かぶ表情には、年齢以上の落ち着きがうかがえた。
「では、ジョン。あなたは、王妃さまとご一緒にロンドンへいらしたの?」
「はい、レディ」
「それまでは、ずっとミドゥラムに?」
「はい。八つの時に母が亡くなり、姉と一緒に王妃に引きとっていただきました」
「そうなの」
 エリザベスにも異母兄弟はいる。それもおそらく大勢のはずだが、会ったことはないし、顔も名前も知らない。母はいつも、エリザベスたちだけが王家の子どもだと言っていたし、エリザベスも何の疑問もなくそう思っていた。今でこそエリザベスも法の上では庶子とされているが、夫婦として常に並んでいた両親の姿を覚えているし、エリザベス自身もずっと王女として扱われてきたので、今さら意識は変えられない。
 だから、ジョンのような子どもを前にして、どのように振る舞えばいいのかわからなかった。彼の育ちも、考えていることも、エリザベスには何ひとつ理解できそうにない。ひとまず、無難なことを訊こうと思った。
「ミドゥラムではどんなふうに過ごしていたの? 王妃さまは、とても楽しかったとおっしゃっていたけれど」
 ジョンの顔にようやく笑みがさした。笑うとにわかに少年らしくなる。
「本当に楽しかったです。ミドゥラムはとてもいいところなんです。空気はきれいだし、人も親切ですし。それにエドワード――弟が、とてもいい子で」
 ジョンはイングランドの王太子を、それ以前でも王弟の嫡男だった少年のことを、たやすく弟と呼んだ。エリザベスには想像もつかないことだったが、ふしぎと嫌悪感はなかった。身分もわきまえずに馴れなれしいと断じるには、ジョンの表情はあまりにも無邪気で、純粋な愛情に満ちていた。
 だから、エリザベスも自然と微笑むことができた。
「仲のいい兄弟なのね」
「はい。エドワードも、ぼくに懐いてくれていると思います」
 ジョンの目は誇らしそうに輝き、頬ははにかみと嬉しさで赤くなっていた。
「ぼくは今、ここでいろんなことを勉強しているんです。歴史や政治や経済、語学、それに、もちろん武芸も。もう少ししたら父に頼んで、何か役割を与えてもらうつもりです。弟が大きくなって、父の跡を継いだとき、助けてあげられるような大人になりたいんです」
 ――男の子というものは、乱暴でだらしがなくて、姉の言うことをちっとも聞かない、どうしようもない生き物だと思っていた。同じイングランドに、こんな少年も存在していたのだ。
「えらいのね。けれど、弟さんと離ればなれで寂しいのではない? お姉さまも、もうお嫁にいらしたのでしょう」
「はい、昨年に。でも寂しくはありません。ロンドンに来てから、友達もできましたから」
 エリザベスは思わず目を細めた。しっかりした、頼もしい少年である。
「お友達?」
「はい。貴族のご子息や、宮殿で働いている子どもたちや――そうだ、レディの弟君たちにも、仲良くしていただいていました」
 エリザベスは足を止めた。
 いきなり耳に飛び込んできた言葉が信じられず、呆然と従弟の顔を見つめた。
 ジョンも隣で立ち止まり、困惑した顔でエリザベスを見つめ返している。
「――弟たちに会ったの?」
 エリザベスは訊いた。口を動かすのがやっとだったので、愛想も気遣いもない、ぶしつけな声になってしまった。
「はい、レディ」
「いつ?」
「去年の――夏ごろです。ロンドンに来てすぐでした」
「元気そうだった?」
「はい、とても」
「どこで会ったの? ロンドン塔?」
 エリザベスは息もつかずに、ジョンに次々と質問を浴びせた。ジョンの顔が明らかに戸惑いを見せていたが、構ってはいられなかった。この宮廷に来てからはじめて、弟たちに会ったという者を見つけたのだ。
 ジョンはうろたえつつも、エリザベスの問いに真剣に答えてくれた。
「はい、ロンドン塔です。弟君たちが先生について勉強なさっている席に、ぼくも着かせていただいたんです。講義が終わったあとも、よく三人で一緒に遊びました」
「今もそうなの? 弟たちとよく会っているの?」
 ジョンは首をかしげた。質問ぜめにされる戸惑いからではなく、逆にエリザベスの言葉に疑問を感じたようだった。
「いいえ、レディ。お二人と最後にお会いしたのは、去年の八月でした。ロンドンを離れていた父から連絡が来て、もうロンドン塔には行かないようにと言われたんです」
「どうして?」
「危険だから、と言われました」
 エリザベスは、何か冷たいものに触れたような気がした。そこから少しずつ体が冷えていく。
「――危険?」
「外で起きていることに弟君たちが巻き込まれないよう、人の出入りを減らすということだと思うんですが、よくわかりません。ぼくはあまり、父と話す機会がないので。父から、何もお聞きになっていませんか? ぼくは、レディ・エリザベスのほうが、お二人のご様子をよくご存じなのだと思っていました」
 エリザベスは答えられなかった。急に弟たちの話が出た衝撃と、その内容の不可解さで、頭の中が混乱している。
 去年の八月といえば、エリザベスはまだ聖域にいた。そしてリチャードは、妃や側近たちを連れて国内をまわっていたはずだ。ロンドンは手薄だった。エリザベスの母は聖域の中で、王位を取り戻す計画を立てていた。実際にその翌月には大規模な反乱が起こったし、ヘンリー・テューダーがイングランド上陸を企てたのもその時だ。
 つまり、そうした騒ぎに乗じて弟たちが逃げることのないよう、ロンドン塔の警備を厳しくしたということだろうか。
 エリザベスはさらに訊いた。
「教わっていた先生がたは?」
「今もこちらの宮殿で、ぼくの勉強を見てくださっています。彼らも弟君たちにお会いしていないそうなので、お二人には別の方がついたのだと思うのですが」
 エリザベスは従弟の少年の顔を見た。困惑しながらも、エリザベスの問いにできるだけ正確に答えようとする、純粋な誠意しか読みとれなかった。嘘をついたり、隠しごとをしているようには見えなかった。
 けれども、どこか違和感がある。今の話はどこかおかしく、そのことにジョン自身も気づいていない。エリザベスも、何がおかしいのか、どこに違和感を覚えたのかわからなかった。
 長いあいだ、二人は何も言わずに、通路の途中で立ち尽くしていた。
 そこに割り込んできたのは、息せききって駆けてきた一人の従僕の声だった。
「ジョンさま! すぐにお戻りください!」
 穏やかな宮殿にそぐわない、けたたましい声に、二人についていた侍女たちも顔を向けた。ジョンもただならぬ空気に怯えたように固まっていたので、エリザベスが先に出て声をかけた。
「なにごとです?」
 二人の前にひざまずいた従僕は、ジョンと一緒にいるのがエリザベスだと知って驚いたようだったが、すぐに我に返って答えた。
「申し訳ありません、レディ。緊急なのです。すぐにジョンさまをお連れしなければなりません」
「何があったのか訊いているのです」
「わたしから申し上げられることではございません。レディ・エリザベス、あなたもお部屋にお戻りください。まもなく知らせが参ることと存じます」
 従僕の表情も声色も、ここまで急いできたらしい様子からも、緊迫した事態だということははっきりとわかった。
 エリザベスはジョンと別れ、侍女たちを連れて自分の部屋に戻った。
 しばらくしてから、エリザベスのもとにも知らせが届いた。王太子エドワードが、ミドゥラム城にて急逝したとのことだった。


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